欺かれた女

 松本清張の短編に「再春」というのがある。作中人物が「再春」という小説を書いたところ、トーマス・マンの「欺かれた女」の盗作だと騒がれる話。

 ところが作中小説(抜粋)が清張自身の「春の血」という短編と同じなのだ。「欺かれた女」の方が清張のフィクションだと思ったら、トーマス・マンの「欺かれた女」は有名な作品で、劇化もされているらしい。「春の血」が文壇で騒がれたかどうか知らない。もし騒がれていないとしたら、清張自身、同作品が「欺かれた女」の盗作だと告発したかったのだろうか。あまりにも無関心な文壇に向かって。